機構一種「特に優れた業績による返還免除」について

 こんにちは。かまぼこです。

 日本学生支援機構(JASSO)の第一種奨学金につき、返還免除を受けた際に質問が多く寄せられました。
 そこで、法科大学院で同奨学金の「特に優れた業績による返還免除」制度につき、ブログにまとめておきます。



Ⅰ 制度概要

(1)総論

 「特に優れた業績による返還免除」は大学院日本学生支援機構(以下「機構」という)の第一種奨学金(無利子)を借りた場合で、申請することで、返還の半額免除又は全額免除を受けることができる制度です(当然のことながら、審査の結果、免除なしとなる場合もある)。

 「特に優れた業績」とは、「学問分野での顕著な成果や発明・発見のほか、専攻分野に関する文化・芸術・スポーツにおけるめざましい活躍、ボランティア等での顕著な社会貢献等も含めて評価」されます。

 大学院在籍中の「業績」を、機構に申請することで、一種奨学金の返還免除が狙えるかもしれない、という制度だと、ザックリ理解してください。

 なお、機構への申請自体は大学院が行います。学生は大学院に申請書を提出し、大学院の中で選考を実施し、選抜された者が機構へ推薦されることになります。

 
(2)法科大学院における「業績」とは?
 機構が定める「業績」は11種類あり、その詳細は次のとおりです。

  1. 学位論文その他の研究論文
  2. 大学院設置基準第16条に定める特定の課題についての研究の成果
  3. 大学院設置基準第16条の2に定める試験及び審査の結果
  4. 著書,データベースその他の著作物(第1号及び第2号に掲げるものを除く。) 
  5. 授業科目の成績
  6. 研究又は教育に係る補助業務の実績
  7. 音楽,演劇,美術その他芸術の発表会における成績
  8. スポーツの競技会における成績
  9. ボランティア活動その他の社会貢献活動の実績
  10. その他機構が定める業績

 上記11種類の機構が定める業績うち、早稲田大学法務研究科では、赤字で示した項目1・4・5・6・9の5項目が「法科大学院での業績」として評価するとされ、特に「6 授業科目の成績」を主要な基準として、他の業績も加味して学内選考されることになります。
※大学院によって、選考基準は異なりうるので、各自ご確認ください。例えば、明治ローでは「音楽・演劇・美術その他芸術の発表会における成績」も評価対象になっています。

 したがって、まずは授業科目の成績(GPA)をひたすら上げることが、免除獲得への第一歩になります。

(3)より具体的な「業績」の内容

 ここからは、さらに細かく、具体的にどのような行為が、法科大学院在学中の業績として評価対象になるのかを見ていきます。

  • 学位論文その他の研究論文
     これは、ほぼそのままですが、「学位論文の教授会での高い評価,関連した研究内容の学会での発表,学術雑誌への掲載又は表彰等,当該論文の内容が特に優れていると認められること」が該当します。
     法科大学院生の場合、リサーチペーパーが該当しそうですが、リサペの場合、「授業科目の成績」として評価するようです。したがって、純粋に研究論文を書くケースが考えられれます。
    ※学内誌に乗せるような査読付き論文を書くロー生なんかいるのかよ、とツッコミたくなりますが、法”学”研究科から法”務”研究科に移籍して、法務研究科在籍中に学内誌に論文掲載していた同級生がいたので、このようなケースが該当するのかもしれません。
     大学院性として「特に優れた業績」としてすぐ浮かぶ典型例ですが、司法試験の学習に追われている中で、この業績で積極的な評価を得るのはなかなか厳しいものがあると思います。


  • 著書,データベースその他の著作物(第1号及び第2号に掲げるものを除く。) 
     「専攻分野に関連した著書,データベースその他の著作物等(第1号及び第2号に掲げる論文等を除く。)が,社会的に高い評価を受けるなど,特に優れた活動実績として評価されること」が該当します。
     著作となると、論文以上に法科大学院生の業績として困難に思えます。「出版社からの依頼に基づく判例データベースの作成など」が、早稲田ローの記載例としてありました。


  • 授業科目の成績
     何度か書いていますが、成績以外に実績が作りにくい法科大学院生にとって、メインとなる業績がこの項目になります。
     機構では「講義・演習等の成果として,優れた専門的知識や研究能力を修得したと教授会等で高く評価され,特に優秀な成績を挙げたと認められること」とありますが、法科大学院生の場合、単純にローの成績(GPA)が優秀かどうかで決せられます。
     なお、早稲田ロー独自の評価なのかは分かりませんが、未修者のみ、1年次に受験する共通到達度確認試験の成績も、申請すればこの分野の業績として考慮されます。
     リサーチペーパーも、この業績として評価されるようです。


  • 研究又は教育に係る補助業務の実績
     機構では「リサーチアシスタントティーチングアシスタント等による補助業務により 、学内外での教育研究活動に大きく貢献し、かつ特に優れた業績を挙げたと認められること」とされています。
     具体的には、産学連携プロジェクトへの参加、TAとして卒論補助を行う、リサーチアシスタントとして研究に参画して中心的役割を果たすなどがあるようですが、いずれも法科大学院生で業績を上げることは難しいと思われます。

  • ボランティア活動その他の社会貢献活動の実績
     機構では「教育研究活動の成果として、専攻分野に関連したボランティア活動等が社会的に高い評価を受ける等、公益の増進に寄与した研究業績であると評価されること」とされています。
     具体的には、学内での学生支援活動(障がい学生等への支援)、早稲田ローが承認した学生研究活動団体の教育支援活動等における中心的役割を果たした、NGO・NPOボランティア活動に参画し、その活動が、社会的に高い評価を得た関連する分野において、公共機関が設置する委員会・懇談会の委員を担うなどが挙げられています。
     これまで見てきたとおり、法科大学院生にとって、実績を上げるのはなかなか難しい中、成績以外に唯一実績を書くことができそうな項目がこの項目です。
    ※早稲田の「学生研究活動団体の教育支援活動」とは、おそらく「法学教室Street Law」の活動を念頭に置いたものでしょう(Law&Practiceやジェンダー法研究会も活動内容によっては入るかもしれませんが)。ほかにも、東日本大震災復興支援法務プロジェクトへの積極的な参加なども、業績の書き方次第ですが、含まれうると考えられます。

 

Ⅱ 免除申請について

 私は本制度に申請し、全額免除の判定をいただいたことになります。
 このことに関連して、どの程度の成績であったのか、何を書いたのかなどの質問が多かったため、本項目にまとめておきます。

(1)記載した実績

 申請書に記載した実績は以下の項目です。

  • 授業科目の成績
    ローの成績
     申請が在学最終年度の1月なので、3年春学期の成績証明書を添付して申請しました。当時の成績は全科目(通算)の成績が10位台、GPAが3.2程度です。
    共通到達度確認試験の成績
     全国上位10%程度でした。

  • ボランティア活動その他の社会貢献活動の実績
    地元市役所の市民委員としての活動
     ロー在籍中に市政に関する市民委員の公募に応募し、委員会においての発言と、その議事録、提言書への反映状況を示しました。
    専攻分野に関連したボランティア活動等が評価を受けたこと
     私が関与していた学内団体において活動が新聞に取材されたことから、実績として記載しました。

(2)どうやったら免除を得られるか

 皆さんがこのブログを読む最大の目的はこの項目だと思われます。
 先にも述べましたが、大学院によって、選考基準が異なることがあるので、所属大学院の規定を併せて参照するよう、お願いします。

  • 推薦者の枠について
     総論でも述べたとおり、特に優れた業績による返還免除は、機構に直接申請するものではありません。所属大学院に申請し、大学院での選考の上、大学院から機構へ推薦することになります。
     このような構造なので、大学院の推薦枠がいくつあるかが重要になります。

     気になる推薦枠ですが、大学の専門職学位課程のうち一種受給者の30%が上限(※)とされています。30%と定める明文規定は見つかりませんでしたが、機構の資料にも記載が見受けられるほか、複数の異なる大学院の案内においても同様の案内があります。
    特に優れた業績による奨学金返還免除制度「修士課程に内定制度が創設されます」(JASSOチラシ、免除者の割合の項目参照)、奨学金情報誌ASSIST明治大学、12頁の末尾に専門職学位課程で何枠あったのか明示している)、日本学生支援機構奨学金について明治大学、こちらは法科大学院に特化した資料で、4頁に記載あり) 、令和3年度大学院法務研究科便覧琉球大学、143頁)、令和3年度(2021年度)日本学生支援機構大学院第一種奨学金返還免除制度のご案内同志社大学)、法科大学院進学を考える皆さんへ日弁連、2010年頃の資料で古いが6頁に3割の記載がある)

     したがって、一種を受給する在学生数が多い法科大学院ほど、推薦枠は多くなることになり、返還免除のチャンスが増えることになります。
    ※なお、早稲田の場合「専門職学位課程」というカテゴリーに、法務研究科・会計研究科・教職大学院経営管理研究科があるため、当該4課程の在学生のうち一種受給者が母数となって推薦枠数が決まると考えられます。したがって、専門職学位課程として法科大学院のみを設置する大学より、より大きなチャンスがあると言いえます。もっとも、法科大学院生で免除枠を食いつぶすとも考えにくいので、他課程に申請者がおらず余剰があれば、程度なのでしょう。

  • 業績について
     これは、ただひたすらにGPAを上げて、1つでもいいから学内順位を上げましょう。この一言に尽きます。
     法科大学院生のメインの評価基準は期末試験の成績になるので、免除を狙う人は必修科目のほか、その他の履修科目も、できる限り良い評価を目指すことが重要です。
     学業成績の下限(どの順位で学内推薦に落選するか)は不明ですので、多少怪しい順位でも、出すだけ出してみましょう。免除がもらえるメリットは大きい一方で、落選するデメリットは精神的落胆程度です(それも、宝くじ程度の希望で申請すれば、大きな落胆はないでしょう)。

     また、全額免除を狙うのであれば、学業成績以外の実績があることに越したことはないです。
     ただし、業績として報告するためには証明書等が必要になるので、形として残る活動でないと、報告が難しくなります。
    自治体の市民委員は委嘱状があるほか、発言の議事録が残ったり、成果物として報告書ができたりするので、業績内容を書きやすく、証明がしやすいです。活動も、(委員会の内容によりますが)資料を読み込んで年数回の会議に出席して発言をするという、学業に対する負担感が大きくないものでした。

 

Ⅲ まとめ

 とにかく、免除を狙うなら成績上位を狙うことが重要です。

 法科大学院進学予定の方で、免除を得たいと考えている人は、できるだけスケールメリットを享受できるローを選択する、というのも一つの考慮要素としてもいいかもしれません。